月別アーカイブ: 2006年11月

ほんとのこと

ほんとうのことを話そうと思うんだ

ほんとうはほんとうかどうかが わからない

ずっと前から言おうと思っていたんだけど
言おうとするとほんとうでないような気がして
ほんとうのことが言えなかった

正直者には ほんとうのことしか
言えないのだとしたら
ほんとうのことを言えないことを
正直に話してしまうと
それはうそで ほんとうでなくて

そんな正直じゃないことが
うそなのか ほんとなのか わからない

だからそれは たぶん ほんとうなんだ

幻想がつなぎ止める世界

僕は君じゃない
僕には君の痛みなんかわからない

君は僕じゃない
君の苦しみは僕には理解できない

それでもお互いに
伝えよう 受け止めよう
そうやって努力することで

分かろうとする僕と
分からせようとする君と

分かりたい僕と
分かって欲しい君と

お互いが分かり合えるという
幻想を共有してきた

僕らが見る夢が
この世界を形作っているのだから

みんなが見る夢が
この世界を形作っているのだから

世界を君の都合で終わらせるのは
やめて欲しいんだ

もし君が僕の痛みを分かろうとするのなら

僕らが空を目指すのは

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僕らが空を目指すのは
それが正の向光性だから?

   ろくに根もはっていないのに
   足下の草が笑ってる

僕らが空を目指すのは
地面に繋がれていないから?

   そんな覚束ない足場でどうする
   傍らで木がつぶやく

僕らが空にあこがれるのは
いつも行き場がないと感じているから

ワンタンを抱えた少女

君は胸にワンタンを抱えて
ボクの前に立っていた
君はお湯を入れたカップを大事そうに抱えて
列車のドアが開くのを待っていた

街は夕暮れ
混んだ列車に不似合いなカップのワンタン

それでも君はあたりまえのような顔をして
たぶん、いつもと同じようにそのカップを抱えている

君はボクに見向きもせず
早く列車に乗り込んで
ワンタンを食べることばかりを考えている

ドアが開き
最後にボクが降りる瞬間
君の手から一本の棒が
ゆっくりと列車とホームの隙間に吸い込まれた

それは美しい等速直線運動であり
ボクの目に美しい残像を残して消えた

対を失ったもう一本の棒が
少女の指にあった

ボクは少女の指にその気持ちのすべてを見た
だから少女の表情を振り返ったりしなかった