ほんとうのことを話そうと思うんだ
ほんとうはほんとうかどうかが わからない
ずっと前から言おうと思っていたんだけど
言おうとするとほんとうでないような気がして
ほんとうのことが言えなかった
正直者には ほんとうのことしか
言えないのだとしたら
ほんとうのことを言えないことを
正直に話してしまうと
それはうそで ほんとうでなくて
そんな正直じゃないことが
うそなのか ほんとなのか わからない
だからそれは たぶん ほんとうなんだ
ほんとうのことを話そうと思うんだ
ほんとうはほんとうかどうかが わからない
ずっと前から言おうと思っていたんだけど
言おうとするとほんとうでないような気がして
ほんとうのことが言えなかった
正直者には ほんとうのことしか
言えないのだとしたら
ほんとうのことを言えないことを
正直に話してしまうと
それはうそで ほんとうでなくて
そんな正直じゃないことが
うそなのか ほんとなのか わからない
だからそれは たぶん ほんとうなんだ
僕は君じゃない
僕には君の痛みなんかわからない
君は僕じゃない
君の苦しみは僕には理解できない
それでもお互いに
伝えよう 受け止めよう
そうやって努力することで
分かろうとする僕と
分からせようとする君と
分かりたい僕と
分かって欲しい君と
お互いが分かり合えるという
幻想を共有してきた
僕らが見る夢が
この世界を形作っているのだから
みんなが見る夢が
この世界を形作っているのだから
世界を君の都合で終わらせるのは
やめて欲しいんだ
もし君が僕の痛みを分かろうとするのなら
君は胸にワンタンを抱えて
ボクの前に立っていた
君はお湯を入れたカップを大事そうに抱えて
列車のドアが開くのを待っていた
街は夕暮れ
混んだ列車に不似合いなカップのワンタン
それでも君はあたりまえのような顔をして
たぶん、いつもと同じようにそのカップを抱えている
君はボクに見向きもせず
早く列車に乗り込んで
ワンタンを食べることばかりを考えている
ドアが開き
最後にボクが降りる瞬間
君の手から一本の棒が
ゆっくりと列車とホームの隙間に吸い込まれた
それは美しい等速直線運動であり
ボクの目に美しい残像を残して消えた
対を失ったもう一本の棒が
少女の指にあった
ボクは少女の指にその気持ちのすべてを見た
だから少女の表情を振り返ったりしなかった