母は果物が好きで、何かしらの果物が食卓に必ずあった。
自分も果物は好きなのだが、実家で暮らしていたときには自分から柿を食べようと思ったことがなかった。小さな頃に渋柿を食べてトラウマになっていたのか、あの酸味のない甘さが嫌だったのか、ヌルヌルした食感が苦手だったのか、理由はよくわからないが自分で皮をむいて食べようとしたことがなかった。
それでも時折、母が剥いてくれて「美味しいよ」と言っていって口に運んでくれた柿を食べた記憶がある。実が黒っぽい大きな種がある柿だ。
ここ十年くらいだろうか、スーパーの店頭に並ぶ柿を結構楽しみにしている。味覚が変わったのか、ふと食べてみたくなり、今ではこの季節の定番になっている。そして、なんとなく母のことを想う。買うのは種なしの柿だけれど。