ワンタンを抱えた少女

君は胸にワンタンを抱えて
ボクの前に立っていた
君はお湯を入れたカップを大事そうに抱えて
列車のドアが開くのを待っていた

街は夕暮れ
混んだ列車に不似合いなカップのワンタン

それでも君はあたりまえのような顔をして
たぶん、いつもと同じようにそのカップを抱えている

君はボクに見向きもせず
早く列車に乗り込んで
ワンタンを食べることばかりを考えている

ドアが開き
最後にボクが降りる瞬間
君の手から一本の棒が
ゆっくりと列車とホームの隙間に吸い込まれた

それは美しい等速直線運動であり
ボクの目に美しい残像を残して消えた

対を失ったもう一本の棒が
少女の指にあった

ボクは少女の指にその気持ちのすべてを見た
だから少女の表情を振り返ったりしなかった

ワンタンを抱えた少女」への3件のフィードバック

  1. オジヤ

    シュールな状況を受け入れるのみならず
    そのまま電車に乗せて送り出してしまうという
    クールさにのけぞりました。
    少女は実はボクの初恋の人の姿で箸を片方だけ落としてしまうのは
    過去の取り返しのつかない失敗を象徴しているのかも。
    とか、少女は駅に張り出されたポスターのモデルで…。
    いろんな読みも許してくれる詩だと感じたのですけど
    そのまま読んだときの格好よさが特に際立っていて素敵でした。

    返信
  2. JIMY-M

    オジヤさんならわかってくれると思ってました。
    そして詩人らしい感性で世界を広げてくれてうれしいです。
    詩として出力した以上は読む人にゆだねるしかないのですよね。
    ちなみに
    この詩は実話です。
    先週の出来事。
    あまりに詩的な情景に
    表現せざるを得なかった自分であります。
    あの後
    箸が一本しかないことに気がついた少女が
    どうしたかすごく気になります。
    ボクなら無理矢理一本で食べるけど
    なすすべもなく、ワンタンの形が無くなるまで
    放置されるっていうのもいいなあ。

    返信
  3. オジヤ

    ええ!実話なんですか!
    あんな感想を書いといて何なんですが驚きです(笑)

    返信

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